2014/01/12記
ここでは主に肉体の強化について、自分の頭の整理のために散文記してみます。
この話題は、掲示板でも書き込みをよく頂いています。私自身も興味があり、交流のある早稲田大学、帝京大学などのOBや元コーチの方、栄養士の方、あるいはトップリーグの選手の方などにことあるごとにヒアリングしてきました。ただ、当然ながら、専門知識を持っているわけではありませんし、情報も最新のことや機密事項など入手できるわけでもなく、間違いや誤解も多いものと思います。ご指摘頂ければ、勉強になりますのでよろしくお願いいたします。また、幸いこのHPは、同志社大の関係の方だけでなく多くの方に見て頂けており、ありがたいです。ただ、多くの方に見て頂けるということはプレッシャーでもあります。ご教示頂いた方にご迷惑がかかることだけは絶対に避けないといけません。という意味から、なるべく公式HPや書籍などの公開情報を元に記したいと考えます。完全ではないと思いますので、ご指摘ください。
同志社大学ラグビー部の「食」は遅れている。
今年度の大学選手権決勝のポスターは衝撃的です。帝京大中村主将(CTB)と早稲田大垣永主将(PR)が腕を組み並んでいるのですが、両者ともに引き締まった筋肉質の体格。とりわけ、バックスの中村主将の腕は、巨漢PR垣永主将と並んでも遜色ないことに驚かされます。ただし、実際にお会いするとさらに驚くことでしょう。以前帝京大OBのバックス選手とお会いしたとき、スーツ姿でしたが、スーツがはち切れそうな姿に圧倒されたものです。
今年度対戦した筑波大学の選手たちの体格も見事でした。ひいき目に見ているのかもしれませんが、必ずしも同志社大の選手が筑波大にあたり負けしているとは思いませんでした。西林選手、北川選手、秋山選手、才田選手は勝っていました。それでも、バックス同士の場合は負けていると感じましたし、同志社フォワードと筑波バックスのミスマッチのシーンで、筑波バックスが止めていたことを考えるとやはり差はあるのでしょう。また、リーグ戦と選手権を通して、外国人選手にはめっぽう弱く感じましたが、早稲田大学の試合ではあれほどにはなっていなかったです。
関東の対抗戦のチームと比べて、体力差があると断定せざるをえないです。これがどこに起因するのか、高校時代からの差なのか、大学に入ってからなのかは、ワールドカップを控えて大学が実質的な育成の重要機関であることからラグビー協会が調査してもよいように思います。そこは、精密な調査を待つとして、体力に関して多くの選手は大学に入ってからと仮定して進めます。もちろん、骨格は大学入学時からは大きく成長しないでしょう。たとえば、高校時代バックスだった選手がフランカー以外のフォワードに転向するのはまれです。しかし、筋力は大学で大きく伸ばせると思います。体重だけで見ても、早稲田大や帝京大の選手の入学時と卒業時を比べると10〜15kg増えている例は多くあります。20kg以上も見られます。同志社では残念ながら、少ないです。一般論ですが、高校生、大学生は、骨格や関節が固まり筋肉を発達させるのに適した年齢と聞きます。では、筋肉はどうすれば効率的に発達させられるのでしょうか。トレーニング、栄養、睡眠の3要素が重要なのは議論の余地がありませんので、トレーニング以外の「栄養」と「睡眠」を中心に、両者をセットで栄養管理として考えたいと思います。
食育というと言葉が古いですが、スポーツのための栄養管理は、体づくり。ラグビーにおいては、パワーで差があると勝負になりません。同志社のそれと、帝京大では大きく差があると仮定して話を進めます。
帝京大学との違いを考える。
帝京大学の情報は、おもに「王者の食ノート」(島沢優子著 小学館)を参考にさせて頂き、差し支えない範囲でお聞きした話も追加しています。
@練習時間
帝京大学が本格的に食の取り組みを始めたのは岩出監督のご就任後の2000年頃。かなり以前からですが、それから7、8年は伸びてはいるものの怪我の影響などで、いまひとつ満足な成績はでていなかったようです。その頃の帝京は練習時間は大学一と自負するくらい長く、食事や睡眠を削ってでも練習していたようです。そのため、夕食は21時以降に開始で、夜食は23時半からで就寝は0時を回り睡眠も不足していたと書かれています。
転機は07に訪れます。栄養士やトレーナーの意見で、上記の状況を「効率の悪い頑張り」と断じ、全体練習は2時間半以内に短縮し、19時半にはグランドでの練習を終え、その後のウエイトトレーニングも含めて夕食を21時には終えるようにしたそうです。その後、体のケアや消耗した栄養を補う夜食をゆとりを持って取り、早めに就寝できるようになりました。これによって、疲れが取れた状態で明日を迎えられ、毎日練習に集中できるようになり、スキルアップもできる、さらには練習強度を上げられるので筋力もアップするという正のスパイラル(※)につながったとのことです。これは、けが人の減少にもつながっているそうです。
※正のスパイラルが形成されない場合、つまり練習で失った栄養を補えないで就寝につくと筋肉が回復せずに衰えていくそうです。体重も減少して、疲れも残り練習も十分に行えない負のスパイラルです。体力を落とし、ひいては下手になるために努力している状態です。
同志社
全体練習の開始が19〜19時半ですので、2時間練習したとして、全体練習終了が21時頃のはずです。それからウエイトを行えば、夕食開始は22時になるでしょうし、それを回避するならウエイト不足になります。という点からだけ見れば、帝京大の「効率の悪い頑張り」であった06年度以前よりも条件は厳しいと言わざると得ません。もちろん、同志社の場合は校地間問題などもあります。今年度からの文系学部の完全移転は、特に高校生の体から大学生の体に仕上げる必要のある今出川本拠の学部の下級生に取っては大変な逆境になっていると思います。(個人的には5講目は選択しないようにするしかないと思いますがそれは別の話で。)その中で、今期の躍進のように結果を出してくれているスタッフ、選手の皆さんには頭が下がるばかりです。ただ、この部分は個人への負担と選手たちの努力に期待しても、短期はともかく長期的には先はないと思っています。つまり、大学のは高校時代に実績のある選手を成長させるのはもとより、高校での実績の無い選手(特にスキルは優秀だが体力不足で実績を上げられなかった選手)の育成に主眼が置かれるべきだと思います。
A食事
帝京大学は全寮制で、朝夕はまかないで、昼食は各自のようです。まかないの朝夕のメニューは、栄養士が作成したメニューで栄養管理されています。ここで、美味しくないと食べてくれないという日本のスポーツ界全体の課題だと思いますが、味やバラエティーにも工夫されているようです。ただし、三食だけでは大きな体は作れないので、補食や夜食にもとりくまれています。あと、低脂肪牛乳をお茶代わりに飲むことやサプリメントです。ここで、摂取のタイミングにも工夫をされています。練習および睡眠との関係で考えられています。
夜食は、鍋を推奨されており、鍋の中身も細かく指導されていて、豚肉、鶏肉の団子、白身魚、つみれ、豆腐といったたんぱく質に、野菜やきのこを加えてたんぱく質の吸収を促進する素材で考えられています。これも、1つの鍋にはポジションが同じ選手が集まるようにして、ポジションごとに必要な栄養素や量になるように心がけているようです。ちなみに、この鍋は真夏でも決行されるようです。驚くのは、食材は選手の自己負担で、買い出しや調理、片付けも選手自らが行っているようです。栄養士はあくまでアドバイスをしているだけです。また、昼食も、八王子キャンパスの授業の合間の1時間に、寮に帰って自炊するなどかなりの努力をしている様子が描かれています。ラグビー選手が主婦のように1円でも安くとスーパーの特売に毎日出かけたり、料理のレパートリーも豊富なのはほほえましい感じがします。これも、1年生に担当を任せたりではなく、上級生もやるそうです。
同志社
以前に比べて栄養管理もやられているようです。あくまでブログでの表面的な情報を拝見してですが、秋合宿の様子をレポートしてくれているもでは、昼食もトップアスリートのそれと考えると少し乏しい気がします。毎日の夕食が鍋とのことですが、予算などの多くの制約がある中での精一杯の努力を部外者が批評する愚を承知であえて書きます。連日、鍋だけの夕食は厳しいでしょう。帝京大の鍋はあくまで夜食で食材も豊富にも関わらず、主食ではありません。同志社の鍋は、写真を拝見すると、やや乏しいような。また、選手はポジションごとに別れるなどの配慮はなされていないようにみえ、きちんと個別に栄養管理されているようには見えないです。また、摂取量なども成り行きのようです。食事はまだおなかを満たすためのものという色合いの方が強く感じます。補食も取られているようですが、おにぎりだけですと糖質主体でたんぱく質が不足します。また、昼食の自炊は、同志社の場合は田辺生であっても、寮までの往復時間を考えると不可能でしょう。
トレーナーやスタッフの努力には頭が下がります。しかし、内実はわかりませんが、ブログなどの情報からだけで感想を書きますと、帝京大とはまだ差があるように感じました。後追いして同じにする必要ないですが、栄養面は割合単純な科学的な要素と思いますので、必要な栄養が足りなくて折角の練習成果が十分に出ないと、折角同志社でがんばってくれている選手に申し訳ない気がします。
ただ、トップリーガーの食事情も見てきましたが、帝京大の方が進んでいます。そう考えると、帝京大などが特別なのかもしれません。しかし、目標が日本一であるならば、これは基準と考えないといけないのでしょう。
B栄養指導
月1回は血液検査やInBody測定で、成果を数値化、見える化して意識を高めています。重要なのは、栄養を栄養士やマネージャーやトレーナーの分担にせずに、選手に自主的に取り組むように仕向けていることだと思います。たとえば、筋力をつけるためにウエイトトレーニングするとして、ウエイトするだけなら筋力にマイナスにしかならないことを徹底して教えています。練習が終われば、すぐに補食やサプリメントを摂取する。クールダウンやストレッチの前に慌てて補食するのを、習慣化させています。それを指導するのは帝京大でいえば、虎石さんという栄養士。ただ、栄養士と肩書きをつけるのは失礼なほど、総合的に考えておられます。また、個人力も非常に優れていると思います。今の帝京大があるのは、氏の力が大きいでしょう。食トレといって、食事をトレーニングの一環と位置づけています。栄養管理というと、上からの押しつけでサイボーグ養成のようなイメージがありますが、栄養指導といった方が適切だと思います。選手が仕送りの小遣いからの自己負担で、やりくりしている様子は、自己努力と言えます。
C体制
やはり心を入れているから成果がでるのでしょう。仕組みや体制だけ作ったとしても、心を入れないと本当の成果はあげられないということです。「同じことをうちでもやっている」という大学はいくつもあると思います。実際そうだと思いますが、帝京大のような成果がでていないとすれば、なぜか。もちろん、他のことに原因を持って行くのが簡単ですが、肉体改造の一点を取っても帝京には及ばないと思います。
帝京OBにお聞きしても、特別のことをやった意識はないようです。ただ、ノウハウを蓄えた帝京大でも成果には個人差もあり、一筋縄ではいかないようです。それでも、虎石さんを中心に、結果がでるまで試行錯誤で取り組むようです。相当努力してそれでも筋肉がつかない場合でも、体質だからとあきらめずに、毎日体重測定を行い、減っていれば栄養摂取に努めると同時にトレーニングのし過ぎや間違いも検討するようです。おそらくこの部分の取り組み方の差が、その時点では僅差であっても1年後には大差にはっているのではと憶測ですが思います。
これを継続するのは、4年間で選手が入れ替わる大学では、並大抵のことではないでしょう。帝京大は契約の栄養士がおられて条件は良いです。ただ、それだけで可能かというと、そう単純でもないようです。選手もスタッフも生身の人間ですから、感情も好き嫌いもあるでしょう。本にも書かれていますが、栄養士の指導を選手が集団で無視して、涙されることもあるようです。
同志社
ここまで、帝京大が正しいというスタンスでの比較ばかりしてきました。しかし、同志社が上回っている点はあります。学生スタッフは同志社の方が充実しています。18名もの学生スタッフは早稲田大も上回ります。同志社ラグビーの人気は健在です。ここに鍵があると思いますし、実際に機能しているのでしょう。このスタッフを束ねる専門技術を持った指導者がいれば、間違いなく日本一のスタッフになると思います。
希望は、今年は早いスタートを切ってくれたようですが、4月の始業までの間は比較的練習時間が取れる時期だと思います。この3ヶ月は重点強化できれば、希望が持てます。1〜3ヶ月で体は変わるそうです。ひとたび成果がでれば、艱難を乗り越えることもできるかと思います。
あと、もう一つは帝京大であっても、今と同じことをやっていてはやがて衰えると思います。どんなにすばらしくても、立ち上げの苦労をした群とそれを継いだ群では成果は変わります。マンネリ化した途端に、衰退に向かいます。ここは帝京大にも気をつけて頂きたい点です。僭越ながら。心から帝京大のさらなる発展を願います。
以上、個人的な偏見なども多く含まれていると思います。ちょっと別の観点からも記載したいですが、ひとまず時間をおきたいと思います。
あと、健康管理や栄養管理は、選手だけでなくスタッフや学生スタッフも含めてクラブ全員に必要なことだと思います。レギュラーだけでなく、学生スタッフもベストのコンディションで仕事をできて初めて強力な組織になると思います。どなたかもいわれていましたが、エリートアスリートの育成だけでなく、生涯スポーツとしてのラグビーの普及にも努められれば新しいクラブのあり方になると思います。
P.S.
以上のように、環境面ではかなり厳しい状況にあります。ただ、少しだけ、明るい話題もあります。オフシーズンは重点的に体づくりをしてきてくれたようです。これまでよりもかなり積極的にやられたようです。もう一つ、スポーツ健康、心理、理工は京田辺ですので、今出川組に比べて、練習時間をとりやすいようです。情報をありがとうございました。(2014年5月10日追記)